遺伝的な過敏アレルギー体質と粗造・乾燥肌(ただし、過敏アレルギーは現代日本社会の生活環境において過敏であるということで、本質的には、必ずしも悪い体質ではありません。)に因ります。つまりアレルギーさえ抑えればよいという疾患ではありません。
この分野が最も研究が進んでいる分野です。アレルギーは一般的に4型に分けられますが、アトピー性皮膚炎に関係するのはこのうち1型と4型です。とりあえずかゆくなる反応は1型に基づくものであり、よって特に1型についての研究が進められています。その結果、1型の中に即時反応以外に遅発相が存在することが解明され、この相が典型的な細胞免疫相である4型への橋渡しをするのではないかと推測されています。またCD4陽性リンパ球には、Th1型およびTh2型があり、アトピー性皮膚炎はTh2型優位のパターンをとる疾患であると目されています。同時に、これら反応系に関係するリンパ球産生物質も続々と発見され、IL4産生抑制剤については臨床応用されています。また、今後これら反応系に関係する細胞や物質を個別に抑制する薬剤の開発が企図されており、これらの薬剤が市場に出るようになれば、全般的免疫抑制作用を併せ持つ、ステロイド剤を多用することなく加療できる日がやってまいります。
ここの部分は今春にまず第1号が発売されました。予想通り価格は高く14万円/月が100%の価格です。その結果、この薬剤を使用可能な患者さんのハードルは高いです。
アトピー性皮膚炎はアレルギーの側面で語られることが多かったのですが、乾燥肌の成因として、先天的に酵素の異常がある為に、セラミドという角質細胞間脂質が減少してしまっている患者さんが多く認められることがわかってきました。またフィラグリンという表皮細胞内物質で、最終的に角層で天然保湿因子として作用する物質が不足しているケースもあります。
水道源水の汚染とこれを消毒するための消毒薬の増量や、食品中の化学薬品の増加等に増悪因子を求める方もいらっしゃいますが、多くの患者さんは、生活環境中の微細ダニに対するアレルギーが主体であり、わたくしは、高温多湿型の気候を持つ日本で、鉄骨およびコンクリートを中心とした建造物を建て、密閉度の高いアルミサッシを閉め切りにした状態で冷暖房を行い、ダニにとって最も生育しやすい環境を提供してしまっていることが最大の因子だと考えています。食事アレルゲンについては、過剰な衛生観念から、雑菌が口内へ侵入するのを嫌うことが大きな因子だと考えます。スキンコンディションの面では、入浴時に用いる垢擦りやボディブラシの流行や固形石鹸からボディシャンプーへのメーカーサイドの販売戦略の移行が災いしているものと考えます。
詳細は(アトピー性皮膚炎の患者さんへ・順天堂外来篇および私見篇)を参照して頂きますが、大まかに言うならば、スキンケアーおよびアレルゲンの除去にあります。
外用で使用する場合と内用で使用する場合では意味合いが異なってくるものと考えます。ステロイドに否定的な立場をとられる方の多くは、「ステロイドの使用により患者さん自身が産生する天然ステロイドが減少し、そのため産生器官である副腎皮質が萎縮し、その結果、ステロイドをoffとした時の抵抗力が低下し、最終的には余計に悪くなってしまう。結局一時しのぎに過ぎないのなら、元々ステロイドは使用しない方が良い。」という主張をなさっています。また、現在これらの意見を主張なさる年齢に達していらっしゃる患者さんは、歴史的にみて旧世代のステロイド外用剤を用いられてきており、そのために副作用が強く出現なさっているという背景もあります。よって、この世代の患者さんが上記の機序を危惧なさることや、歴史的にステロイド外用剤が乱用された感のある時代が存在したことは事実であり、彼らの意見には一面合理性があるのは確かです。しかし、現状においては作用と副作用が乖離した、つまり効果が高い割には副作用が少ない薬剤に移行してきている、また使用するステロイドの強さを以前に比較してより弱いものを選択する傾向になってきているという理由において、よほど広範囲に長期間用いない限りにおいては、上記のようなシナリオは成立しないものと考えます。加えてステロイドはアレルゲンへの反応性を低下させる作用があり、上手に使用すれば理論的にもたいへん有効な薬剤なのです。
ここまでに述べてきたように、アトピー性皮膚炎を根治させることは実に困難であります。時間とお金が無尽蔵にあるならば、ステロイドを全く用いることなく、ある程度の状態に保つことは可能かとは存じます。しかし社会人として学生として生活してゆくには支障を伴います。加えてご家族の負担も大きなものになります。よってわたくしは、節度ある使用に関しては致し方ないものと考えます。
アトピー性皮膚炎は症状に波があり、季節によっても影響されることが多いです。ですから増悪時にただただ堪え忍ぶのではなく、一時的にステロイドを使用することも合理性があるように考えます。
内用によるステロイドの使用は、原則として行われなくなってきています。外用よりもリバウンドが著明に出現するからです。ただし顔面皮疹の増悪時には、外用を強いランクへ移行させるよりも有利であると考えます。
皮膚局所の副作用については、元々皮膚が薄い顔においては出現し易いです。よって顔への使用に関しては医師と良く話し合って、必要最小限の使用に止める必要があります。例えば白内障や網膜剥離を合併しそうな患者さんには是非とも必要になりますが、弱い紅斑のみであまり痒みを伴わない症例では必須ではありません。
以上、慢性疾患としてのアトピー性皮膚炎はやっかいな存在ではありますが、これへの治療行為はかなり多数あり、これらを全て試みられた患者さんは少ないのではないかと存じます。よってあきらめる前に(もちろんあきらめるという選択も患者さんの正当な裁量権であるが)これらの治療を受けてみられてください。
その後の1番大きな発見は、フィラグリンについてです。
2006年にイギリスの研究グループが尋常性魚鱗癬という、皮膚の乾燥・肥厚を来たす遺伝性疾患の原因遺伝子の検索を行っていました。
家族暦よりは、常染色体優性遺伝の可能性が高いと推定されていましたが、彼らは常染色体優性遺伝以外に、2つの変異を発見し、軽症の尋常性魚鱗癬の存在が示唆されることになりました。アトピー性皮膚炎もそのひとつではないかということです。
何が起こるかというと、表皮細胞内物質で、最終的に角層の保湿成分として働く、フィラグリンが減少するのです。
ただし現在のところ、アトピー性皮膚炎の患者さんで、上記の変異が存在する割合は30%位です。しかしながらわたしの予想では、これらの変異は多数あり、今後発見されるものも含めると、その割合はずっと高くなると考えます。
アトピー性皮膚炎とは、もって生まれた過敏な体質と弱い皮膚のために生じる、とてもかゆい慢性の皮膚の炎症ですが、子供では就学前、思春期から青年期のものでも20代の終りには多くの人が治ってしまいます。ただ慢性であるために、日常生活上多くのことに注意し、薬の副作用を防ぐ意味からも専門医の定期的診察を受けることをお勧めします。
以上、生活上の注意についてまとめてみました。ここに挙げた方法にはもちろん異論があります。従ってこの内容は現時点での私見としてご理解いただきたく存じます。ここに述べた内容だけでも、完全に実行することはたいへんな努力を要します。また新築マンションのように自ずと高温多湿になってしまう環境では努力が思うように報われないかもしれません。アレルギ-の程度も個人差が大きく、効果もこれに相関することになると思います。しかし、これらを実行すれば1ランク弱い外用剤が使用できるようになるかもしれません。このことは長い経過をとることが多いアトピ-性皮膚炎において、副作用の回避という点で大きな意味を持つことを保証致します。患者さんおよびご家族のみなさんのご健闘を祈ります。
問診、視診による症状把握。
病態について説明。
アレルギータイプかどうか、またアレルギー源の特定のための検査施行。
基本的な治療に着手。
検査結果の説明。
生活指導。
病態に合わせた各種治療方法の説明。
症状の変化に対応した治療の進行。
ポイントはアレルギー優位か乾燥皮膚優位かの見極め、増悪因子の特定、外用剤の使い分けにあります。